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@decay_world

減衰世界@decay_world

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2015年10月13日(火)35 tweetssource

10月13日

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減衰世界@decay_world

【用語解説】 【ニトロスライム】
古エシエドール帝国が科学によって作り上げた不定形生物の一種。燃料となる石油スライムや食用スライムなどの亜種がある。餌は家畜用飼料や植物の破片で、爆発的に増殖するため各自治体によって管理される。稀に下水道で繁殖し街が吹き飛んだりする。舐めると甘い

posted at 17:38:38

10月13日

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減衰世界@decay_world

一羽の烏が酒にありつこうと、シェルヒを見下ろしていた。烏は、一瞬シェルヒの影が女性の形に変わった気がした。烏は不思議に思わない。影は優しくシェルヒの足首を撫でて、元に戻る。それも幻覚かもしれない。死霊とは妄執と後悔の結晶だ。 119

posted at 17:31:35

10月13日

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減衰世界@decay_world

裏庭の隅に、小さな石碑が立っていた。荒削りの表面に、弔われた者の名前が彫ってある。
「おはよう、ルーミ」
 シェルヒはそう言って、ポケットから酒瓶を出した。石碑の前に置かれたコップに注ぎ、祈りを込める。ルーミはとうの昔に浄化された。シェルヒは今も祈りを続ける。 118

posted at 17:28:28

10月13日

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減衰世界@decay_world

朝の仕事、家畜の世話を終えて、少しだけ年を取ったシェルヒは顔を洗っていた。鏡を覗くと、幾分かましになった表情が見えた。恐れや不満の無い、一人の人間の顔だ。シェルヒは笑って、井戸端から裏庭へと回る。もう一つの日課……命じられたものでもない、彼自身の仕事がある。 117

posted at 17:26:28

10月13日

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減衰世界@decay_world

街から外れた宿場町跡。廃墟となりひとの行き来も無くなった場所に盗賊団は根城を作る。井戸もあるし、盗んだ家畜を囲う設備もあった。かつて侵入者を威嚇した板の壁は、いまや盗賊団の安寧を守る役目を担う。盗賊団狩りに備えて地下脱出路も備えたリッチな拠点だ。 116

posted at 17:23:51

10月13日

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減衰世界@decay_world

この事件を境にシェルヒの生活が変わることは無かった。彼は相変わらず盗賊の使い走りだったし、巨万の富を手に入れることも、至上の名誉を受けることもなかった。それで彼が不満だということも、もうなかった。彼は幽霊屋敷の事件を境に……少しだけ、満足することを覚えた。 115

posted at 17:21:13

10月13日

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減衰世界@decay_world

大鏡が割れる。殺人鬼が残した魔法の法則が破壊される。騎士と令嬢は口づけを交わしながら、崩落した炎の天井に押しつぶされ消えた。ルーミの姿もまた、炎となって消えていく。館はいつまでも炎上した。夜空を照らし、全ての呪縛を灰にした。そして、何もかもが終わった。 114

posted at 17:18:18

10月13日

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減衰世界@decay_world

「可能性を信じていなかったのは、俺の方だったか。困った、認めざるを得ないな」
 騎士は初めて、心から笑った。令嬢も彼の笑顔を見て、表情を和らげる。魔法陣は構造的に完璧ではない。完璧な人間がいないということは、人間の作る魔法の法則に完璧が無いということだ。 113

posted at 17:15:38

10月13日

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減衰世界@decay_world

騎士は令嬢を抱き、ルーミに問うた。ルーミは炎の笑顔を作る。
「彼は言っていたよ。いつも精いっぱいで生きているって。負けても、辛くても、結果が出なくても、精いっぱい生きてる。だから、彼は逃げても、精いっぱい生きれるのよ。結果が全てなんて、子供でも言える世界の法則だわ」 112

posted at 17:13:26

10月13日

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減衰世界@decay_world

館のエントランスには炎の影となったルーミがいた。彼女は館の地縛霊だ。館と彼女は運命を共にする。それは彼女の願いだった浄化の時だった。
「なぜ彼が来ると信じられた。あいつは負け犬はずだ。結果がすべてじゃないのか。負けたら終わりだと、お前はなぜ思わない」 111

posted at 17:11:04

10月13日

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減衰世界@decay_world

騎士は炎の中に、令嬢と共にいた。彼の周囲には風が巻き起こり、炎をはじいていた。それも長くは続かないだろう。彼は炎に沈む鏡を見た。熱で大きくひびが入り、鏡面に舐めるような炎を映す。令嬢は騎士を強く抱きしめる。騎士は抱き返し、シェルヒが去ったエントランスを見た。 110

posted at 17:08:53

10月13日

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減衰世界@decay_world

館のホールは、瞬く間に炎と爆炎に包まれた。シェルヒはもう十分だとばかりに、館を飛び出す。彼の目的は達した。使用したダイナマイトは5本。報酬で払いきれる。シェルヒは走った。遺骨を抱えて、どこまでも走った。
「見たかよ、僕はやった。僕はやったんだ。見たかよ! あいつの顔!」 109

posted at 17:06:26

10月13日

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「吹き飛ばすんだ、僕は……剣を振れなくても、お前ら全てを吹き飛ばせるんだ! それが僕だ! 吹き飛べ、偽物!」
 シェルヒは発火装置の撃鉄を引く! ディスクが回転し連続で火花を起こす! それは容易く導火線に火をつけた。放り投げる。次々と! 騎士は令嬢を抱えて逃げるしかない! 108

posted at 17:03:45

10月13日

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減衰世界@decay_world

「引き金を引くだけで、火花が導火線に火をつけるぞ」
 脅しの文句を述べつつ、シェルヒもまたにじり寄る。ゆっくりと隅へ移動し、ルーミの遺骨を回収する。
「迎えに来たよ。すべての呪縛と、おさらばする日が来た」
 呪縛。ルーミの呪縛。魔法陣の呪縛。シェルヒを悩ました、呪縛。 107

posted at 17:01:03

10月13日

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ダイナマイトはニトロスライムという魔法生物を加工して作られる爆発物だ。些細な衝撃で爆発するニトロスライムを安定させてはいるが、最初に相対した時のように剣風を浴びせれば、大爆発を誘発しかねない。騎士はゆっくりと間合いを取る。シェルヒは片手に撃鉄式発火装置を掲げた。 106

posted at 16:57:16

10月13日

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減衰世界@decay_world

激しい音を立てて開かれる、館のエントランスの扉。そこに立っていたのは、勇気で頬を震わせたシェルヒだった。彼は両手に、胴体に、ダイナマイトを巻き付けていた。
「来たぜ……お前が剣を振るうなら、僕はダイナマイトで行く! ダイナマイトは剣より強いんだよぉ!」 105

posted at 16:54:21

10月13日

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減衰世界@decay_world

「絶対に来ない!」
「来るわ、仮定でしか考えられないあなたでは……机上の空論ではそういう答えかもね。でも、本当の人間は仮定を実現させるものよ!」
「来ない!」
「絶対に来る!」
「来れるわけがない! 無様を晒して、再び来れるわけが……」
「来たぜ!」 104

posted at 16:50:59

10月13日

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「失敗は汚点だ、無駄だ。結果こそ全てだ。成功した結果だけが意味を持つ」
 騎士は鏡を殴る。それはひび一つ入らない。
「彼はきっと帰ってくる。あたしには分かる。あなたが無駄だと吐き捨てた全てを背負って、彼は生きている。だからあたしは……彼を信じられるの」 103

posted at 16:48:22

10月13日

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「楽しいわ、あたしは完璧だもの」
「いいえ、虚勢だわ。あなたには経験が無い。仮初の経験では何も得られない。あたしには困難も、挫折も、失敗も、数え切れないほど。それらは一つとして無駄ではなかった。成功しか仮定しなかったあなたに、その一つでも存在するかしら」102

posted at 16:46:04

10月13日

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「あたしだってそう。あたしの人生にはいくつもの無駄があったかもしれない。でも、それは全て満たされていた人生よ。だって、あたしはこうして、しみになっても楽しく生きてるじゃない。ご令嬢、あなたは本当に幸せ? 作られた情報だけの、仮定の情報で張りぼてな人生は楽しい?」 101

posted at 16:42:58

10月13日

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「欠けているじゃない」
 ルーミの声。しみのルーミは、ホールの隅、暗がりの中で静かに目を光らせていた。
「あなたはあの人のことを、馬鹿にしたよね。可能性を捨ててきた人生だって。空虚な人生かと思ったかしら? そんなこと、あるはずない。あの人の人生に捨てるとこなんて何もない」 100

posted at 16:40:06

10月13日

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鏡の輝きは強くなったと思えても、すぐに弱まり、まるで電力の不安定な電球のように頼りなく瞬く。
「何が足りないというんだ、全て満たされているはずだ。それが前提条件だ。この魔法の仕組みだ。一体、何が足りないというんだ!」
 令嬢も、不安そうな顔で騎士を見つめる。 99

posted at 16:36:11

10月13日

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魔法の契約は確かに結ばれる、そう騎士は確信していた。実際、鏡はゆっくりと輝きを増していく。だが、最後の最後で、輝きは頂点に達することは無かった。
「なぜだ? なぜ彼女を権利者と認めないんだ……こんなにも完璧なのに、何も、欠けたところはないはずだ。なぜ……」 98

posted at 16:34:00

10月13日

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令嬢は静かに鏡を見る。騎士は鏡に向かって静かに語りかける。
「権利者が今こうしている。そして、その方法も知っている。さぁ、魔法陣の権利を彼女に」
 ただの言葉に思えるが、それは魔法的視線を伴った契約の魔法だ。しみのルーミ……ましてやシェルヒには不可能な芸当だ。 97

posted at 16:32:04

10月13日

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シェルヒそっくりの、しかしシェルヒではない完璧な騎士。彼は鏡に向かって、その光の奥を見つめていた。手をつなぎ隣に立つのは、ルーミそっくりの……完璧な令嬢。
「ルーミ、今から君はこの館の主として一切の権利を移譲される。そして、鏡の魔法陣を破り、俺たちを解き放つんだ」 96

posted at 16:27:25

10月13日

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(前回までのあらすじ3:地下室で騎士を待ち受けるシェルヒ。そこで彼はルーミの亡骸を発見する。一度は決心したが、騎士が迫ると、シェルヒは逃げ出してしまう。騎士はルーミの遺体を回収し、鏡の力で『完璧なルーミ』を作り出す。一方そのころシェルヒは酒場で飲んだくれていた)

posted at 16:23:24

10月13日

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(前回までのあらすじ2:魔法によって現れたシェルヒそっくりの騎士。彼はシェルヒが諦めた、叶えることのできなかった騎士の夢の実現だった。騎士は魔法陣の制約を破るため、館の外に出るため館の地下室に隠された遺体を処分するという。シェルヒは地下室に籠城し、決心を固めた)

posted at 16:20:40

10月13日

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減衰世界@decay_world

(前回までのあらすじ:古びた屋敷に不法侵入した盗賊のシェルヒ。くだらない仕事に後悔する毎日。そこで彼は壁のしみ、ルーミと出会う。この館は殺人鬼に魔法をかけられているという。ルーミは殺されたらしい。そして、殺人鬼の残した魔法がシェルヒの前に現れる)

posted at 16:18:23

2015年10月12日(月)41 tweetssource

10月12日

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密輸業者の男が、シェルヒを見つけて仕事を持ち掛ける。ダイナマイトを隣の都市国家まで運ぶ依頼。
「倉庫に30kgある。少ないか? いや、密輸にはちょうどいい量さ。これを……」
 シェルヒは黙って聞いていた。そして、一つの答えを出す。
「分かった。ビジネスだ。交渉をしよう」 95

posted at 17:56:09

10月12日

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ダイナマイト密輸の仕事がよぎる。いわばこれも選択肢だ。今まで通り汚い仕事を続けるか、それとも他の選択肢を探すか。ふと屋敷のことが浮かんだ。あれも選択肢だろう。
「俺は逃げ出したんだ」
 選択肢は潰えた。本当に? シェルヒはいくつもの道の間で迷っていた。 94

posted at 17:55:44

10月12日

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もちろん、シェルヒには持て余している土地などない。だが、あの若者は選択肢を決して捨ててはいなかった。知っていながら、それでも自分の選択肢をシェルヒに分け与えたのだ。きっとあの若者も、駆け出しのころは苦労したのだろう。そして燻っているシェルヒに自分を重ねたのだろう。 93

posted at 17:54:38

10月12日

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若者は酒代をテーブルに置き、立ち上がった。綺麗に切りそろえられた口ひげを撫でて、にやりと笑う。
「最後のおせっかいだ。土地を探している。家主の同意があればいいが……そう、更地にして、賃貸住宅を建てるのさ。名刺、置いておくよ」
 若者は名刺を置いて去っていった。 92

posted at 17:52:19

10月12日

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「お前の目には迷いがあったぜ。だから、安酒に逃げる選択肢を奪わせてもらった。今夜はいい酒に酔いな」
 シェルヒはじっと蒸留酒のショットグラスを見下ろしていたが、やがて一気に飲み干した。ストレートの蒸留酒は彼の喉を焼き、心臓に火をともした。 91

posted at 17:49:40

10月12日

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選択肢を取り戻したい。シェルヒは黙ったまま、若者の奢りを受け入れた。指を鳴らしウェイトレスを呼ぶ若者。やがて、いつもの収入では決して買えないであろう蒸留酒と、みすぼらしいグレナデンソーダが運ばれてくる。若者は素早く安酒を飲み干すと、高価な蒸留酒をシェルヒに差し出す。 90

posted at 17:47:21

10月12日

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「おい、何シケた面してやがる。酒が不味くならぁ。酒を一番まずくするフレーバーは、怒声と泣き顔だぜ」
 一人の若い酔っ払いがシェルヒに絡んできた。彼はシェルヒより若そうだが、身なりや装飾品は豪華で高級なものに統一されていた。若者は説教するわけでもなくシェルヒに酒を奢った。 89

posted at 17:44:47

10月12日

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生まれたときには、人は皆無限の選択肢を与えられている。歩みを続ける中、旅の中で選択肢はどんどん減っていく。酒場のメニューだってそうだ。この中で一番高い酒を頼める選択肢だってあったはずだ。今の彼が選べるのは、最も安い酒。ただ一つ。シェルヒは惨めな気分に浸った。 88

posted at 17:42:31

10月12日

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あか抜けない地味なウェイトレスが、愛想も見せずに寄ってくる。
「グレナデンソーダ。小瓶で頼む」
 一番安い酒。シェルヒの飲める酒は、この程度の安酒しかない。
(みじめな人生だよ)
 九死に一生を得た、奇跡の生還。その祝い酒が、はした金で買える安酒か。
(お似合いだよ) 87

posted at 17:38:58

10月12日

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転がり込むように酒場に飛び込み、隅のじめじめした席に隠れるように座った。シェルヒは、安堵のため息をついた。生き延びた。生きて帰ったのだ。普通、魔人の張った魔法陣に囚われたら、生きて帰ることなどはかない夢。それが常識だった。魔法陣はかなり劣化していたらしい。 86

posted at 17:35:11

10月12日

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壁のしみに過ぎないルーミは、自分の骨に手を添えて言った。
「あんたたちが何もかも優れているとは思わない。魔法は結局人間の手によるもの。完璧な人間がいないように、完璧な魔法なんてない。シェルヒを待つよ。だってシェルヒは、あんたに無いものをいっぱい持ってるんだから……」 85

posted at 17:30:26

10月12日

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そこには、ルーミの理想を体現した……殺人鬼に殺されることなどない、完璧な人生を歩んだルーミがいた。完璧な騎士と、完璧な令嬢。二人は手を取り合って踊った。まるで造花のような踊りだった。
「嬉しい。あたしはこれからも輝かしい人生を歩める。汚い骸骨で終わることなんてなかった」 84

posted at 17:27:56

10月12日

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そしてこちらに向かって一歩踏み出した。鏡の中から、白樺のような足がでて、ホールの床を踏んだ。鏡から令嬢が出てきたのだ。騎士は用が済んだとばかりに髑髏を投げ捨てた。髑髏は床の隅に転がり、二つに割れる。ルーミは自分の髑髏に駆け寄った。
「勝手に埋めるなり、好きにしろ」 83

posted at 17:25:20

10月12日

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鏡の中の髑髏は、半透明の体を色濃くしていく。やがてその霧は一人の令嬢の姿になった。ルーミは一歩も動けなかった。その令嬢は……自分の生前の姿そのものだったのだ。令嬢は眠ったように動かない。そのうなじは騎士の手につかまれている。ゆっくり目を開き、にやりと笑う令嬢。 82

posted at 17:22:39

10月12日

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騎士はホールへと戻り、大鏡の前に立った。そして鏡に突きつけるように髑髏をかざす。鏡の中の髑髏は、彼の右手にあるものと変わらない。ルーミは驚愕した。鏡の中の髑髏が、ゆっくりと白い霧をまとい、人の形を取り戻していくのだ。
「驚いたか? 安心しろ。俺は誰よりもこの鏡に詳しい」 81

posted at 17:04:19

10月12日

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ゆっくりと地下室の階段を上っていく。勝者という者は焦りもせず、恐れもせず、堂々と、ゆっくりと歩むものだ。誰もそれを止めることはできない。騎士の数メートル後ろの壁を歩くのはルーミだ。壁伝いに移動する。ただの壁のしみだが、表情が見えたら失望に染まっていただろう。 80

posted at 17:01:40

10月12日

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騎士はとうとう、ルーミの頭蓋骨を掘り出した。夕日に照らされて白い髑髏が赤く染まる。
「ふ、これか」
「どうするつもりなの」
 ルーミは破壊された壁の隣で、じっとするほかなかった。
「いくらでも使いようはある」
 騎士はそう言ってゆっくりと地下室を後にした。 79

posted at 16:57:25

10月12日

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「今までの魔法は誰一人死体を処分することはできなかった」
 ルーミが問いかける。
「魔法は全て途中で崩壊した。結局、魔法は不完全だったのよ。あなたはシェルヒの才能に生かされているけど、結局は同じ」
「同じなものか。現に、俺はお前を……見つけたぞ」 78

posted at 16:54:32

10月12日

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「無駄だ」
 騎士は手で壁を崩していく。土壁はあっけなく崩れた。ルーミは壁ごと崩れてしまうので、脇に移動するほかなかった。彼女は無力だった。地味な作業はいつまでも続いた。手で壁を掘るのはそれなりに難儀する。日は傾き、夕日になった。シェルヒは帰ってこなかった。 77

posted at 16:49:01

10月12日

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視線を四方の壁へ巡らす。崩れた壁はすぐに目に留まった。
「これか」
 騎士はにやりと笑った。白骨死体が視線に晒される。
「シェルヒは必ず帰ってくる」
 いつの間にか壁のしみがそこにいた。ルーミだ。彼女は自分の死体を覆い隠すようにして立ちふさがった。手を伸ばす騎士。 76

posted at 16:45:55

10月12日

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地下室の扉は捻じ曲げられ、蝶番ごと破壊された。ばらばらにはじけ飛ぶバリケードの家具。涼しい顔の騎士。汗一つかいていない。静かに地下室に入っていった。天井を見上げる。壊れた天窓。騎士は微かに侮蔑の笑みを浮かべた。そして辺りを見回す。誰も彼を止めることはできない。 75

posted at 16:43:37

10月12日

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窓ガラスを叩き割り、狭い隙間を潜り抜ける。外の眩しい光はシェルヒの逃走を許しただろうか。地下室から扉の破壊される音。同時に、窓から外に出る。走った。どこまでも走った。魔法陣から脱出したのだ。恐ろしい、魔法使いの罠から。それを咎めるものは誰もいなかった。 74

posted at 16:40:41

10月12日

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地下室での時間は、シェルヒの決心を固めるにはいささか短すぎた。激しく叩かれる扉。シェルヒは地下室を見渡す。
(嫌だ! こんなところで無様に死にたくはない!)
 内なる自分が再び叫ぶ。明かりの源。壊れかけた天窓があった。逃げられそうな予感がする。急いで窓によじ登る。 73

posted at 16:38:36

10月12日

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ルーミの気配はない。シェルヒは覚悟を決める。そのとき、交通事故のような大きな衝撃! ドアが一回叩かれただけだ。それだけで、家具の上に乗せられていた椅子が吹っ飛び、壁にぶつかってばらばらに壊れた。タンスは今にも倒れそうだ。再び衝撃。シェルヒは急に怖気づく。 72

posted at 16:36:35

10月12日

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「ルーミ、ここにいたんだね」
 優しく声をかけて白骨をなでる。シェルヒはルーミに謝りたくなった。ルーミは自分に救いの手を差し伸べてくれていた。目を閉じ、冷静になることで、ようやくそれに気づいたのだ。救いの手は差し伸べられているその時には気づけない。 71

posted at 16:33:00

10月12日

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骨から元の生物を想像する。いや、深く考える必要もない。どんな好事家だって、壁に牛骨を塗り込んだりはしない。人間の骨だ。人間が、壁に塗り込まれていたのだ。その姿は、ルーミの姿と重なった。壁のしみ、壁伝いに移動できる特性。すべてが壁に塗り込まれた骨と繋がった。 70

posted at 16:30:45

10月12日

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それが何なのかは、崩れた箇所が小さすぎてよくわからない。爪を突き立ててさらに崩してみる。指先が痛くなる。硬いものを探す。ベルトのバックルだ。ベルトを外し、バックルの角で壁を掘る。少しずつ露になる何か。それは何かの骨に見えた。動物にしては大きく、太い。 69

posted at 16:28:46

10月12日

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苛立ちは集中力を途切れさせる。目を開く。目の前には家具が山積みになった地下室の入り口。ふと、視線を感じて横の壁を見る。古い地下室の壁は、ところどころ内装がはげ落ちていた。その一角に違和感を覚える。立ち上がってつぶさに観察する。何かがある。壁に塗り込まれている! 68

posted at 16:26:58

10月12日

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騎士との戦いに勝ち、ルーミを弔う。それが最善だ。理想だ。まさに願望の結晶だろう。現実は無情だ。それは現実のシェルヒの無様さと重なった。理想通りには生きられない。完璧には生きられない。ベストを尽くすことは不可能だ。それを、あの騎士は魔法でズルしている。怒りが湧いてくる。 67

posted at 16:24:36

10月12日

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嫌だ! こんなところで無様に死にたくはない! 内なる自分が叫ぶ。ではルーミは? 殺人鬼に殺された哀れな犠牲者。彼女は死体を破壊され、屈辱のまま消えるだろう。それはシェルヒの恐れる無様な死と同じだ。同じ苦しみ、同じ侮辱。そこで優先するのは自分か、他者か。 66

posted at 16:21:51

10月12日

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目を閉じ、自分の内面に語りかける。意地を張って何になる? 生きることは戦いではないのではないか。狭い地下室。こんなところがお前の死に場所か。これでは、殺人鬼に殺されるのと変わらないではないか。騎士はもうすぐここへ来るだろう。そしてシェルヒを殺し、目的を達する。 65

posted at 16:19:47

10月12日

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(前回までのあらすじ2:魔法によって現れたシェルヒそっくりの騎士。彼はシェルヒが諦めた、叶えることのできなかった騎士の夢の実現だった。騎士は魔法陣の制約を破るため、館の外に出るため館の地下室に隠された遺体を処分するという。シェルヒは地下室に籠城し、決心を固めた)

posted at 16:12:17

10月12日

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(前回までのあらすじ:古びた屋敷に不法侵入した盗賊のシェルヒ。くだらない仕事に後悔する毎日。そこで彼は壁のしみ、ルーミと出会う。この館は殺人鬼に魔法をかけられているという。ルーミは殺されたらしい。そして、殺人鬼の残した魔法がシェルヒの前に現れる)

posted at 16:11:37

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